独狗蛇徒[ドクダト]は解体工事中の某古ビルにいた。
     すぐ隣には、信者二人に手を後ろに回されて動けない咲花がいる。

     独狗蛇徒が咲花に手を伸ばし、くっと顎を上げると言った。

    「そろそろ素直になったらどうだ?我々の仲間になれ。君の力が必要なのだ。」

    「はっ…誰がアンタなんかの仲間に…!!」

     咲花は誘いを真っ向から拒否すると、独狗蛇徒の指を力いっぱい噛んだ。


     独狗蛇徒はスウッと冷たい目になると、パシィっと咲花の頬をひっぱたいた。





    「調子に乗るな。」





     突き刺さる様な声にぞくっと悪寒が走る。



     これが、S級犯罪者の真の姿…



     咲花は必死で恐怖を堪え、平静を装った。



     ここで震えたら負けだ…!!



     とはいうものの、やはり『恐怖』という感情は、容易に抑えられるものではない。
     まるで地震の様に、だんだん震えが大きくなってくる。
     それに独狗蛇徒が気付いた。

     ニヤッと勝ち誇った笑みを浮かべ、追い打ちを掛けようと口を開いたその時、ドカッバキィッというような音がしたかと思うと、見張りの為に入口に立っていた二人の男が、中へ倒れ込んできた。


    「何事だ!!?」


     独狗蛇徒が声をあげると、入口から明らかに信者ではない男4人が入ってきた。


     咲花は思わず零れそうになった涙を必死で止めた。




     英二だ。
     英二が、来てくれた。




     しかしその英二は頭に包帯を巻き、息を切らし、下を向いて男の1人の肩に見るからに辛そうにたれ掛かっている。
     あとの2人は、それを守るかの様に前に出た。


    「何者だ!!?」

    「英二!!」

     2人が答えるより先に、咲花が叫んだ。


    「咲花か…」

     英二は下を向いたままで、そう呟いた。


     少し顔を上げたが英二は前を向いたまま、英二にとって左側にいる咲花を全く見ようとしない。



    「英…二?」


     自分を見ない英二に不安を覚える咲花。

     独狗蛇徒はふと、前に進んでくる、英二の足元を見た。
     フラフラしていて、一歩一歩確認するように歩いている。



     それを見て、独狗蛇徒はニヤッと笑った。







    「そうか…そなた…失明したのか。