「おのれぇ!!」


     独狗蛇徒は殆ど動かない腕を精一杯後ろに回し、スッと何かを取り出した。
     ニヤッと独狗蛇徒が勝ち誇ったように笑う。


     失明した英二は気付く事が出来ず一息吐いて銃をしまっていた。キラッと光が反射し、咲花が独狗蛇徒の手に握られたサバイバルナイフに気付く。


    「英二危ない!!」

    「!!」


     咲花の悲鳴にも似た叫び声に、思わず英二はその場から飛び退いた。
     それが功を奏して、独狗蛇徒のナイフは英二の胸の辺りの服を切り裂き少し掠めた程度で済んだ。


     一瞬の出来事で、咲花の声で反射的にそれを避けた英二には何が起きたのかわからなかったが、胸に付いた傷の痛みで我に返った。

     カチャリとセーフティーバーを下ろし、引き金に指を伸ばす。



    「英二!!」



     咲花の呼び掛けにも応じず、指にどんどん力を入れていく。
     銃口は独狗蛇徒の額に当てたまま動かない。




     カチリ。




     英二は遂に引き金を引いた。
     しかし弾が出ることはなかった。

     遠くの方から、徐々にサイレンの音が近付いてくる。
     英二はフッと笑うと、


    「俺の勝ち。」


    と言った。

    「お前を殺すほど、鷹爪組に金はねーんだよ。」

     独狗蛇徒はそれを聞いてなにか諦めたかのように笑うと、バタバタと後から慌ただしく入ってきた警察に連れて行かれた。


     独狗蛇徒の配下も一緒に連れて行かれ、解放された咲花は急いで英二に駆け寄り完全に光を失ったその眼を覗き込んだ。




    「――ッ!!」



     咲花は包み込むように英二の頬に触れると、ポロポロと涙を流し始めた。


    「ごめんね。ごめんね。私のせいで―」

    「咲花のせいじゃない。俺が護りたかったから護っただけだ。だから勝てた。おかげで思い出したよ、お前の笑顔。」

    「!!」

    「眼は見えなくなっても、ずっと覚えてるから。」

     英二はそう優しく言いぎゅっと抱き締めると、咲花はその腕の中で声をあげて泣いた。