闇と化した瞳の奥に、咲花の顔がぼんやりと浮かび上がる。
しかしそれは笑顔ではない、今にも泣きそうな顔だった。
英二がその眼で最後に見た、咲花の表情[カオ]だ。
(今も、アイツはこんな表情[カオ]してんのかな。)
フッと笑いが込み上げる。
咲花にそんな表情[カオ]が似合わない事くらい、英二もよくわかっていた。
笑顔だけが一番輝いて見える事も。
しかし、なぜだか咲花の笑顔を、英二は思い出せなかった。
勝たなければ。
英二は少し戸惑ったが、そう思わずにはいられなかった。
この闘いが終われば、きっと咲花は笑ってくれると、そう信じていたから。
ひゅっと風が鳴る。
眼が見えない分、集中力が高まり、気配を感じやすい。
独狗蛇徒[ドクダト]の気配は各地に分散されていた。高速移動がそれを可能にしているのだろう。
しかし、その動きは単調だった。
独狗蛇徒が攻撃に入る。背後に手刀を構えて現れた。
「死ねぇ!!!」
迫る手刀。それは確実に英二の頭を狙って繰り出されている。
しかし、カチャっと独狗蛇徒の眼の前に銃口が現れた。英二が構えた物だ。
その時何が起こったのか、当事者である独狗蛇徒にも理解出来なかっただろう。
確実に背後に回った筈の人間はこちらを向いていて、ただ、目の前には銃口があって。
汗が一筋顔の輪郭を伝う。
危うく英二の頭を貫くというところで、独狗蛇徒は攻撃を止めなければならなかった。
「チッ…!」
舌打ちすると独狗蛇徒はまた消えた。
「命拾いしたな!鷹護英二!だが、次こそはその命、頂くぞ!」
英二はまたもや眼を閉じた。体中の神経を集中させて、独狗蛇徒の気配を感じ取る。
スッと、英二はいきなりなにもない所へ銃口を向け、立て続けに二発発砲した。
するといきなりそこから血が飛び散り、叫びながら肩を抑えた独狗蛇徒が現れた。肩からは大量の血が噴き出ている。
「おのれぇ~!!」
独狗蛇徒は、腹の中から煮えたぎるような憎しみを押し出すかのような声で言い、また消えた。
しかし英二は全く動揺せず、その後も誰もいない所へ発砲を繰り返し、遂に独狗蛇徒は四肢を全て打ち抜かれ立つ事さえ出来ない状態になった。
体中を血に染め、立てずに座り込む独狗蛇徒に英二は銃を向け、静かに言った。
「チェック・メイトだ。」