「!独狗蛇徒…独狗蛇徒ですって!?」
英二から奪うように男の襟元を咲花は掴むと、サーッと血の気が引いた。
「おい?なんなんだよ。その独狗蛇徒っていうのは。」
「独狗蛇徒…ほぼ全ての国に組員がいるといわれる謎の組織、世界革命会の首領。その目的は現在の平和な世界を変え、地球に必要な人間しか生き残らせないという、血と殺戮と破壊の世界の創造。そして独狗蛇徒自身、世界S級犯罪者の超危険人物…まさか今日本にいるなんて…」
「どーだ!思い知ったか!独狗蛇徒様の御力を!」
勝ち誇ったように高笑いをする男たちを尻目に、ピーっと英二は口を鳴らす。
すると、わらわらわらと、どこからともなく家中の組員が集まって来た。
「坊!どうかされましたか?」
「こいつらがさ、ウチは弱小組合だってよ。好きに遊んでいいぞ。」
いきなり英二の口から出た嘘に驚いた男たちの声が引き攣る。
否定する間もなく、完全にキレてる男の山が襲い掛かってきた。
血気盛んな男たちにとって、跡取り息子である英二の命令は絶対だ。
だから、足を撃たれた男たちが否定しようがしまいが、彼等を止める術はないのである。
そこにいた正体不明の男たちが全員意識をなくすまで、10分とかからなかった。
それは、男たちが足を撃たれて抵抗出来なかったのもあるが、おそらくヤクザの人数が男たちの倍はあったからであろう。
全てが終わるのを見届ける前に、英二は咲花を屋敷の外へと連れ出した。
「何処行くの?」
のん気に咲花が言う。
屋敷の外に出た瞬間、先刻同様、怪しい男たちが2人を取り囲んだ。
「…気付くの早過ぎ。」
英二はボソっとボヤいた。
そう、英二は咲花を彼等が気付かぬ内に安全な場所へ連れていくつもりだったのだ。
ボディーガードとしてそれくらいやらなければならない。
動機こそ不純だが、一度やると決めたからには最後までやり通すのが英二のモットーなのだ。
壁際に2人は追い詰められる。
英二は咲花を自分の後ろに隠すように彼等と相対した。
一斉に男たちは2人に襲い掛かってきた。
普段の英二ならどんなに強豪な男が一人ずつでもいっぺんにかかって来ても、10分もあればざっと30人くらい余裕で倒せる。父親に、家に行く度に付き合わされる『腕試し』のおかげだ。
だが、今回は守らなくてはならない女性がいる。
一匹狼が性に合う英二は今まで一度たりとも誰かを守りながら戦いを、しかも大人数を相手にしたことなどないのだ。
当然、やりにくいったらありゃしない。下手に動けば咲花が掠われるし、かと言って動かなければやられっぱなしだ。
とりあえず、英二は来た奴を片っ端から一撃でノックアウトしていった。
敵が遠く、英二は少し咲花から離れた。油断した直後だった。
男の一人がぐいっと咲花の腕を引っ張ったのだ。
当然、咲花の体はそっちへ傾く。
「咲花!」
慌てて咲花に駆け寄ろうとした瞬間、ゴン!と鈍い音が英二の頭に響いた。
「あ…っ」
鈍器のような物で殴られたのだ。
頭から多量の血を噴き、その場に倒れる英二。
「英二!英二!!」
薄れ行く意識の中、英二は何度も自分の名を呼ぶ咲花の声を聞いた。
そして、英二が咲花の姿を見たのは、それが最後だった。