ガウン!ガウン!




     銃の鳴る音が響く。

     此処は鷹護家敷地内にある射撃場だ。先刻から英二は一人で銃を撃っていた。
     その姿を物影から英一と咲花の2人は見ている。



    「メイファちゃん、英二の銃の腕は凄いよ。撃ったら狙った所に百発百中。『興味』を持ってもらえてよかったな。」

     英一が笑って咲花に言う。
     咲花も二コッと笑い返すと、勇気を出し、英二に向かって歩き出す。


     人の気配に気付き、英二は振り向き様銃を構えた。
     しかしそれは咲花だと気付きすぐに銃を降ろす。

    「なんで此処が…?」

    「えっと…家の中をさ迷い歩いていたら、たまたま辿りついちゃった。」

    「はぁ?」

     笑いながら言う咲花に、思わず間の抜けた声を出す英二。

     この家はとにかく広くて複雑な造りになっている。
     それは、鷹爪組を乗っ取ろうとして侵入して来た他の組の者を逆に返り討ちにする為だ。
     だから、この家において『たまたま』なんて事は有り得ない。

     ふと咲花の背後にある物影に、ニヤニヤしながらこっちを見ている英一の姿に気付く。



     ガウンガウン!!



     英二は英一に向かって2発ほど発砲した。
     英一はスッと体を動かすと、それを難無く避けた。


    「まだまだだね。英二君☆」


     英一はそう言い残すと、逃げるように悪戯っぽそうな笑顔を浮かべながら、去っていった。


    (あんのクソ親父!)


     英二はもう一発お見舞いさしてやろうかと思ったが、弾の無駄になると知っていたので止めた。

     昔から英二が勝負を仕掛けては返り討ちに合ってしまう、英一の実力はイヤという程知っている。
     そんな英一にいくら頭にきてるからと言って弾の無駄遣いをする程、鷹爪組の予算にゆとりはないのだ。




    「で?なんか用?」

     英二は空薬莢を取り出したリボルバーに、一個ずつ弾を入れながら言った。


    「別に、用って程の用はないけど…英二がどうしてるかなぁ?って思って…」

    「ふーん。」


     カシャンとリボルバーをセットすると、素早く目前5メートル先にある射撃板に銃を横にして構え、立て続けに全弾撃った。

     けたたましい爆音が鳴り響く。

     その激しい音に、咲花は思わず耳を塞いだ。
     静かになり、銃頭から一筋の白い煙が立っている。



     フゥと英二は短く息を吐く。
     見ると射撃板には、心臓がある部分に一つの穴しかなかった。

     そう、全ての銃弾がそこを通ったのだ。

     銃は、撃つと少なからず反動がつく。
     それによって撃ち抜きたい所とは全く見当違いの所に飛んでいく事も多い。
     同じ場所を撃ち抜くなんて、玄人でも至難の技だ。
     それを英二は、若干15歳にして見事にやりのけたのである。




    『撃ったら狙った所に百発百中。』




     まさにその通りだ。
     狙撃手に銃の扱い方を習った訳でもなく、独学でここまで出来るなんて、英二の銃の才能をうかがわせる。

     英二はまたリボルバーから空薬莢を取り除くと、弾をつめ、今度は木の上に向かって一発撃った。
     がっ!という声がしたかと思うと、撃った木の上から一人の男が降って来た。英二に足を撃ち抜かれ、バランスを崩して落ちてきたのだ。
     その手には麻酔銃を握っている。


    「なにコイツ…?」

    「先刻からずっとお前を狙ってた。気付かなかったのか?他にも沢山視線を感じるゼ。全く、随分と人気者ですこと。」

    「そんな…」


     英二は木の上や草むらに向かって残りの5発全て撃った。
     全員、右の足の付け根と膝のちょうど中間の太腿に一発ずつ撃ち込まれている。

     才能の無駄遣い。
     英二にはその言葉がよく似合う。

     英二は、足を撃ち抜かれ苦しんでいる男たちの内の一人の襟元を掴むと言った。


    「おい、お前らはなにモンだ?何故、咲花を狙う?」

    「はっ誰がお前みたいなガキに言うかよ…!」


     男は強がってそう言おうとしたが、最後の方はあまりの激痛に消え入るような声だった。
     英二が男の両腕を背中に回し、グッと力を入れたのだ。
     男は折れる!折れる!と泣き叫ぶ。しかし英二は容赦しない。
     そして遂に男は観念して、涙を浮かべながら答えた。



    「独狗蛇徒[ドクダト]様だよ!独狗蛇徒様が小さいガキに守られてる一風変わった女の子を傷つけずに連れて来いっておっしゃったんだ!」