キキーッと音を立てて車が停まる。
     鷹護邸に着いたのだ。

     それはコンクリートで出来た近代的なものではなく、現代にそぐわぬ木製で日本の家を象徴するに相応しい家だった。
     塀の向こう側から木の枝が伸びる場所を無くし、こちら側まではみ出している。門も引き戸だ。



     そして日本にしては珍しく、妙に馬鹿でかい家だった。






    「ちょっとここで待ってろ。」



     英二はそう言い残すと一人で門の前まで行った。
     ガラガラガラと戸を開ける。




     一歩敷地内に入った瞬間、頭上から無数の竹槍が降って来た。
     英二は難無くそれを避ける。

     次は咲花のSPの様な男達の大群だった。彼等の突きや蹴りが一斉に英二を襲う。
     しかし、英二はこれも超人的な早さで避けると、男達を全て生身の突きや蹴りのみで倒した。

     今度は手裏剣や小刀が四方八方から飛んで来た。
     おそらく、投げた主はどこか物影に隠れているのだろう。
     英二は懐からスッと、指の先から肘の関節位までの長さの三つの棒を取り出し、一つにつなげると、次々と手裏剣等を弾く。しかし攻撃が止むことはない。


     それにしても、彼はいったいいくつ手裏剣を持っているのか。
     まったくもって、謎である。


     英二はいきなりジャンプすると、一つの草むらに飛び込んだ。

     手裏剣を投げていた犯人がびっくりしながら英二を見る。
     しかし英二の持つ棒に頭を殴られ、思考はプツリと途切れた。

     英二は腰に取り付けられたホルスターから拳銃を取り出すと、両手でしっかりと押さえ、ピタリと庭に面した和室の襖を狙った。










    「親父、出てこいよ。全部凌いだぜ。」










     英二は襖に向かって言った。
     英二は未だ襖に拳銃を構えたままだ。

     すーっと襖が開く。
     その向こうには、浴衣を着た、目が細い厳格な顔立ちの大男が立っていた。


     英二が狙っていたのは彼だったのだ。




     そして、彼こそが慶一の兄であり、英二の父親であり、鷹爪組の首領でもある、五代目・鷹護 英一だったのだ。








    「流石だ、英二。また腕を上げたな。」



     英一はにやっと笑うと、英二は拳銃を下ろしホルスターにしまった。
     英一が英二に対し趣味としている「腕試し」が終わったのだ。




    「親父、今日は客がいるからちゃんとしてろよ。」

    「ムッ?英二も遂に彼女が出来たのか。よかったよかった。おい、野郎共!英二が未来のカミさん連れてきたぜ!」



     どこからともなく、男の大群が二人のいる庭に集まって来た。




    「坊!やりましたね!」

    「彼女は可愛いですか?美人ですか?」

    「だから彼女じゃないって。」


     男達が英二を取り囲み、次々と質問を浴びせる。

     聞く耳を持たない男達に英二は短く息を吐くと、門に向かって歩き出そうとした。
     それに気付いた男達はさっと開き、道を作る。
     その道を英二は歩いていくと、門の外で待たせていた咲花を引きずり込み、言った。



    「俺がこいつのボディガードなんだよ!」



     一瞬静まり返る。

     しかしすぐにまた騒がしくなった。







    「あ…姐御ー!!」


    「姐御凄いっス!坊がボディガードするなんて!」

    「駄目だこりゃ…」


     英二はあきれてものも言えない。

     一方咲花はかというと、英二の「腕試し」で残った竹槍やあちこちにちらばっている手裏剣の残骸、気絶している男達の山を見て唖然としていた。
     それに気付いた英一が口を開いた。



    「野郎共、相手はカタギなんだ。おめぇらが束になって行ったら怯えるじゃねぇか。英二に殺されねぇ内に解散しろ!」

    「す、すみません、五代目。」


     男達は英一に一喝され散り散りに散らばって行った。

     英二はそれを見届けると、英一と咲花に背を向け、家に向かって歩き出した。



    「英二、何処に行くんだ?」

    「たまにはやらないと腕が鈍るんでね。」


     英二はそうとだけ言うと、二人に背を向けて歩きながら、右手はポケットに、左手は銃を作った。