独狗蛇徒はそう叫ぶと見たこともない構えをした。


     これこそが、独狗蛇徒が最も得意とし、S級犯罪者にのし上がらせた究極の殺人拳法、その構えだったのだ。
     目にも止まらぬ早さで動きながら攻撃するその拳法は、相手を四方八方からその命尽きるまで襲い続ける。

     つまりその構えを見たという事は、死刑を宣告されたのと実質同じ事なのだ。

     今の英二にその姿を見る事は出来ないが、一瞬にして独狗蛇徒の気配がピリピリしたモノに変化した事は、英二にもわかった。



     しばらく相対が続く。

     その時、独狗蛇徒の姿がフッと消えた。次の瞬間、英二の背後に現れ殴り倒す。

     目が見える者でも追うことが出来ないその速さ。当然、英二は全く抵抗出来ない。

     独狗蛇徒はその後も、約5mはある間合いを一瞬にして詰め、四方八方から英二を襲う。
     ガハッと血を吐く姿に、咲花は思わず目を反らした。





     見ていられない。



     私が仲間になるって言えば…





     そう思って口を開こうとした瞬間、


    「咲花!!」


    といきなり英二に名を呼ばれた。



    「てめぇ、仲間になるから俺を助けろなんてほざいたら殺すぞ!!」


     英二は、咲花の心を見透かしたように一蹴した。


    「でも!このままじゃあ、英二死んじゃうよ!」

    「うるせぇ!いいんだよ、死んだって。お前が助かればそれでいい。」

    「なによ!お金で引き受けた仕事のくせに!期待させるような事言わないでよ!」



    「馬鹿!大切だから助けるに決まってんだろ!!」



    「!?」



     英二は勢いで言ってしまったその言葉に気付き、顔を真っ赤にして俯いた。
     咲花もびっくりして言葉を失う。




    「今……なん…て…?」




     覚束ない声に英二はにこっと真正面を見て笑うと、




    「俺に任せろ、お姫様。」




    と言って立ち上がった。


     スッと、目を閉じ神経を研ぎ澄ます。






    『「見よう」とするな、「感じる」んだ。神経を研ぎ澄まし、全身でその気配を「感じる」んだ。風を読め。そうすれば、お前は一番大切なモノを護れるだろう。己が心に向き合え。何が一番大切か、素直になるのだ。行け!今こそその時!その名に恥ぬ闘いをせよ!鷹爪組六代目首領、鷹護英二!!』






     ここへ来る前に最後に聞いた、父・鷹護英一の言葉が、頭の中にこだまする。




     『感じる』…




     独狗蛇徒は、またもやあの構えをした。けりをつけるつもりだ。
     おそらく、次もう一発もろに技を喰らえば英二は死ぬだろう。

     そんな事は、英二も充分承知していた。
     立ち上がらなければ、あるいは助かったかもしれない。


     だが、英二は全てを知ってしまったのだ。
     今の自分にとって、なにが一番大切かを。

     敵わないとわかっていても、どうしても立ち上がらずにはいられなかった。


     大丈夫。


     そう自分に言い聞かせる。


     大丈夫。
     俺には護らなきゃいけない奴がいるんだから。